2026年10月26日

「排便すると血が出る」
「お尻に何かが飛び出してくる」
「痛みや違和感があるけれど、病院に行くのは恥ずかしい」
このようなお悩みはありませんか?
痔は非常に身近な病気ですが、デリケートな場所だけに、なかなか医療機関を受診できず、長年我慢している方も少なくありません。
一方、痔の治療法は進歩しており、すべての方が大きな手術を受ける必要はありません。薬や生活習慣の改善で症状が落ち着くこともあれば、注射や手術によって改善が期待できることもあります。
今回は、痔の原因や症状、治療することのメリットとリスク、そして代表的な治療法であるALTA(アルタ)療法とLE(結紮切除術)について、わかりやすく解説します。
1. そもそも「痔」とはどんな病気?
一般的に「痔」と呼ばれる病気は、大きく3つに分けられます。
・痔核(いぼ痔): 肛門周囲の血管を含む組織が腫れたり、外に飛び出したりする病気
・裂肛(切れ痔): 硬い便などによって肛門の皮膚が切れてしまう病気
・痔瘻(あな痔): 肛門周囲の感染が原因で膿がたまり、肛門の内側と皮膚の間にトンネル状の通り道ができる病気
この中で特に多いのが、いぼ痔とも呼ばれる「痔核」です。
今回ご紹介するALTA療法とLEは、主にこの痔核(いぼ痔)に対する治療です。
痔核はなぜできるの?
実は、肛門の内側には、血管や結合組織でできたクッションのような組織があります。
このクッションは、肛門をしっかり閉じ、便やガスが漏れないようにする働きを助けています。
ところが、排便時の強いいきみや便秘などによって肛門に負担が繰り返しかかると、血管が拡張したり、クッションを支える組織が緩んだりします。
その結果、組織が大きく腫れたり、肛門の外側に飛び出したりするようになります。これが痔核です。
つまり、痔核は単に血管が腫れた病気ではなく、肛門を支える組織が緩み、本来あるべき位置からずれてしまう病気でもあるのです。
2. 痔になりやすい原因とは?
痔の発症には、体質だけでなく日常生活の習慣が深く関係しています。
特に影響すると考えられるのは、次のような習慣です。
・便秘がちで、排便のときに強くいきむ
・トイレで長時間座っている
・下痢を繰り返している
・長時間座って仕事をする
・重いものを持つなど、腹圧がかかる機会が多い
・妊娠や出産によって肛門に負担がかかる
こうした負担が繰り返されることで、痔核の症状が徐々に現れることがあります。
特に注意したいのは、長時間のトイレ習慣です。
スマートフォンを見ながら長時間便座に座ったり、便が出ないのに無理にいきんだりすることは、肛門に余計な負担をかけます。
便意があるときにトイレに行き、無理にいきまず、短時間で排便を済ませることが大切です。
3. 痔核には「内痔核」と「外痔核」がある
痔核は、できる場所によって大きく2つに分類されます。
内痔核(ないじかく)
肛門の内側にできる痔核です。
この部分には痛みを感じる神経が少ないため、通常は強い痛みを伴いません。
主な症状は、排便時の出血や、痔核が肛門の外へ飛び出す「脱出」です。
進行すると、排便のたびに指で押し戻さなければならなくなることもあります。
外痔核(がいじかく)
肛門の出口付近にできる痔核です。
こちらは痛みを感じる神経が豊富な場所にあるため、腫れたり血の塊(血栓)ができたりすると、強い痛みを伴うことがあります。
内痔核と外痔核が一体となっている場合もあり、そのような痔核では治療法の選択が特に重要になります。
4. 痔核の重症度は4段階に分けられる
内痔核の重症度は、一般的に「Goligher(ゴリガー)分類」という方法で4段階に分けられます。
I度 出血などの症状はあるが、飛び出さない
II度 排便時に飛び出すが自然に戻る
III度 排便時に飛び出し指で押し戻す必要がある
IV度 常に飛び出している、押しても戻らない
Ⅰ度やⅡ度では、生活習慣の改善や薬物治療で症状が落ち着くこともあります。
一方、Ⅲ度やⅣ度では、注射や手術などの治療が必要になることがあります。
ただし、重症度だけで治療法が決まるわけではありません。痔核の大きさや形、外痔核の有無、日常生活への影響なども考慮して判断します。
5. 痔は必ず治療しなければいけない?
すべての痔核に注射や手術が必要なわけではありません。
症状が軽い場合は、食物繊維や水分の摂取、排便習慣の改善、軟膏や坐薬などによって症状が軽減することがあります。
ただし、薬で炎症や痛みが落ち着いても、大きくなった痔核や脱出そのものがなくなるとは限りません。
特に次のような場合には、積極的な治療を検討する価値があります。
・排便のたびに出血する
・痔核が飛び出して、毎回押し戻している
・肛門の腫れや違和感が気になる
・下着が汚れたり、肛門周囲のかゆみが続いたりする
・症状が気になって仕事や旅行、スポーツを楽しめない
治療することの大きなメリットは、単に痔核を小さくすることだけではありません。
出血や脱出による不快感を改善し、お尻の症状を気にせず、普段どおりの生活を送れるようになることが重要な目的です。
なお、痔核そのものが大腸がんに変化するわけではありません。ただし、肛門からの出血が必ずしも痔によるものとは限らず、大腸がんなどが隠れている可能性もあるため、自己判断せず診察を受けることが大切です。
6. 切らずに治す「ALTA療法」とは?
ALTA療法は、痔核に特殊な薬液を注射することで、出血や脱出の改善を目指す治療法です。
ALTAとは、硫酸アルミニウムカリウムとタンニン酸という成分の略称です。
日本では「ジオン注」という薬剤が使用されています。
ALTA療法の仕組み
脱出する内痔核に薬液を注射すると、痔核への血流が減少し、組織が徐々に硬く、小さくなります。
さらに、緩んだ組織を周囲に固定する作用によって、痔核が外へ飛び出しにくくなります。
切り取るのではなく、注射によって痔核を縮小・固定する治療です。
ALTA療法のメリット
最大のメリットは、組織を大きく切除しないため、術後の痛みが比較的少ないことです。
また、出血が少なく、体への負担が比較的小さいため、適切な症例では日帰り治療も可能です。
ALTA療法のデメリット・リスク
一方、ALTA療法にも注意点があります。
① 再発の可能性がある
ALTA療法は、痔核を切除するわけではありません。そのため、治療後に再び痔核が大きくなったり、脱出したりする場合があります。
一般的に、結紮切除術より再発率が高い傾向があります。
② 治療できる痔核が限られる
ALTA療法の主な適応は、脱出を伴う内痔核です。
外痔核が大きい場合や、内外痔核が一体となっている場合などは、ALTA療法だけでは十分な改善が得られないことがあります。
③ 薬剤による合併症がある
治療後に発熱や肛門周囲の腫れ、痛みが生じることがあります。
まれですが、直腸潰瘍、直腸狭窄、重いアレルギー反応などの合併症も報告されています。
また、妊娠中・授乳中の方、透析治療を受けている方、嵌頓痔核のある方などには使用できません。
このため、ALTA療法は「注射だから誰でも安全に受けられる」という治療ではありません。適切な診断と治療後の経過観察が必要です。
7. しっかり取り除く「LE(結紮切除術)」とは?
LEは、Ligation and Excisionの略で、日本語では「結紮切除術」と呼ばれます。
痔核への血流を処理し、腫れて大きくなった痔核を切除する方法です。
古くから行われている標準的な手術法で、現在も重要な治療選択肢の一つです。
LEのメリット
最大のメリットは、原因となっている痔核を直接切除でき、根治性が高いことです。
特に、大きく脱出する痔核や外痔核を伴う痔核では有力な選択肢になります。
ALTA療法と比較して、一般的に再発が少ないことも大きな特徴です。
LEのデメリット・リスク
① 術後の痛み
LEでは肛門周囲の組織を切除するため、術後に痛みが生じます。
特に排便時には痛みが強くなることがあり、鎮痛薬などによる適切な疼痛管理が必要です。
② 術後出血
手術直後だけでなく、術後数日から1〜2週間程度経過した時期にも出血することがあります。
少量の出血であれば経過観察できる場合もありますが、大量出血では止血処置や再手術が必要になることもあります。
③ その他の合併症
排尿しにくくなる尿閉、傷の感染、傷が治る過程で肛門が狭くなる肛門狭窄などが起こることがあります。
また、まれではありますが、肛門の筋肉や組織への影響によって便やガスを保持する機能に問題が生じる可能性もあります。
このため、必要以上に広く切除せず、肛門の機能を温存することが重要です。
8. ALTA療法とLE、どちらがよいの?
両者には、それぞれ異なるメリットとデメリットがあります。簡単にまとめると、痛みや負担が少ないけど再発が少し多いALTA、痛みや負担はあるけど再発が少ないLE、といったところでしょう。ただし、内痔核と外痔核の両方に対応できるという点でやはりLEはゴールデンスタンダードです。しかし、重要なのは、「どちらの治療が優れているか」ではなく、「自分の痔核にはどちらが適しているか」という視点です。
例えば、外痔核が小さく、脱出する内痔核が主体の場合には、ALTA療法が適している可能性があります。
一方、内外痔核が大きく、しっかりと取り除く必要がある場合には、LEが適していることがあります。
また、内痔核にはALTA療法を行い、外痔核には切除を行うなど、両者を組み合わせる治療法もあります。
まずは診察を受けて、自分の痔がどのような状態でどの治療がで適しているのかを理解することが重要です。
9. 痔の治療後、日常生活にはいつ戻れる?
術後の回復には個人差があります。
ALTA療法は術後の痛みが少なく、比較的早く日常生活に戻れる方が多い治療です。
一方、LEでは傷が治るまでに時間が必要で、痛みや出血の状態に応じて仕事や運動の内容を調整する必要があります。
いずれの治療でも、術後は便秘や強いいきみを避け、医師の指示に従って過ごすことが大切です。
また、術後に出血が止まらない、強い痛みが続く、発熱する、尿が出ないなどの症状があれば、速やかに医療機関に連絡してください。
日帰りで治療できるかどうかも、痔核の状態、全身状態、麻酔方法、術後のサポート体制などを踏まえて判断します。
10. 痔の治療で大切なのは、これからの生活
痔は、必ずしも命に関わる病気ではありません。
だからこそ、症状があっても我慢したり、治療を後回しにしたりしがちな病気です。
しかし、排便のたびに出血したり、飛び出した痔を毎回押し戻したりすることは、日々の生活の中で少しずつ負担になります。
適切な治療によって、こうした煩わしさから解放されることには大きな意味があります。
もちろん、症状が軽く、日常生活に支障がない場合には、無理に手術を受ける必要はありません。
また、治療を受けた後も、便秘や強いいきみなどの生活習慣を改善することが再発予防につながります。
痔の治療で目指したいのは、単に病気を治すことだけではなく、お尻のことを気にせず、毎日を快適に過ごせるようになることです。
当院はそけいヘルニアの専門施設ですが、痔核(いぼ痔)の治療も数多く行っています。お尻の出血や腫れ、脱出などでお困りの方は、一人で悩まず、まずは当院にご相談ください。
本日も最後まで読んでくださりありがとうございました。
町田そけいヘルニア日帰り手術クリニック
安藤文彦